「時々思うんだ、俺たちが双子でなければよかったと」
「ん?ああ…赤の他人だったら、後ろめたい事なくヤレるからって事?」


 バージルの広いベッドに寝転がり、サイドボードに散らかした煙草の一本を取り、唇に挟んだ。
「まさか。他人に興味はない。俺たちがもしも一人の存在になれたらという事だ。これがアンドロギュノス的発想というやつなんだろう、俺は今までバカバカしいとしか思えなかったが…」
「ハイ出た、バージル博士の哲学タイム」
 うんざりしながら火をつけて、バージルに背中を向ける。
 今は一番脳味噌を休ませたい時間だというのに。こんな面倒で退屈な話を聞くつもりは毛頭ない。
 溜め息代わりに吐いた煙が、寝室の少し蒸した空気に溶けていく。
「…ダンテ。俺はお前にない力を持っている。逆にお前もそうだ。だから、はじめから俺たちが一つの個体だったら、それほど価値のあるものは他にないだろう」
「……」
 バージルの視線が背中の紋章に注がれているのを感じた。 
「…正直、あんまわかんねぇ。そういうのは」
 煙草をくわえたまま仰向けになり、無機質なグレーの天井を眺めた。
「けど一人になっちゃうと、せっかくの相手がいなくなるぜ。俺は別にヤロー専門って訳じゃないけど、あんたはどうやら俺だけらしいからな」
「……」
「まあ…俺はバージルがいてよかったって思ってるよ。何せこの通り、体が合うんだ。一つにまとまっちゃ、勿体ないんじゃない?」
 目を閉じて寝言のようにぼんやり喋っていたのが、大きな油断だった。
 吸い始めたばかりの煙草を不意に抜き取られる感触。
 目を開けると、ダンテの隣でリラックスしていたはずのバージルが、いつの間にか真上に覆いかぶさっていた。
 その片手に抓まれた自分の煙草に目がいったが、あえなく手の中で握りつぶされてしまう。
「おい、っ、」
 煙草の代わりに唇に押し付けられたのはバージルのキスだ。
 容易く唇の中に入った厚い舌が歯の裏を舐め上げて、ぞくりと背がむず痒くなる。
 思わず浮いた背中にバージルの腕が滑り込み、逃げられないように強く抱きしめられた。
 ベッドがギシリと軋んだ。
 頬が擦れ、重なった唇は濡れた音をあげる。
 タールが染みていないバージルの口の中は、やけに甘く感じた。
「んんっ、」
 舌を思い切り吸われて、付け根が千切れるような痺れに呻くが、強引な愛撫に遠慮はない。痛いくらいが良い事はお互い承知だった。
 ひとしきり口の中をいいように舐め回し、ようやく唇を離したバージルの顔は満悦気味だ。
「…何サカってんの?オニーチャン。何回弟泣かすつもりだよ」
「お前の挑発はわかりやすい。乗ってやっただけさ」
 普段はインテリらしく撫でつけた髪が乱れている。前髪にちらりと隠れたターコイズ色の目が、今は赤く燃えているように感じた。
「…俺がいつあんたのこと誘惑したっての」
 濡れた唇をつり上げて、白く尖った歯がチカリと嫌な光を見せる。
「そういう所だ、つまりは」
 冷静になりたい頭とは裏腹に、押さえつけられた体が熱くなっていくのがわかった。
 ああ、きっとバージルの熱がうつったせいだ。
 精々の舌打ちもその熱い唇に塞がれて、ぶつける事はできなかった。