(嫌いになってしまいたいくらいだ)
「そうだよ、無くした金は賭けで取り返せばいいけど、梶ちゃんは違うよ特別だから」
「いや…僕の事だって、元は賭けで物にしたんじゃないですか」
寝そべったまま交わす取り留めのない会話。こんな事も、ついこの間まで俺とは縁遠い物だった気がする。
俺の言葉はいまいち真理から浮いているのか、あまり素直に喜んでくれない。
特別とかそういう言葉で騙さないで下さいよ、とけちをつける唇に迫って、ほんの数秒それを塞いでやった。
「……」
それだけで別物に変わる表情が面白い。
「特別は特別だよ……わかんないならさ、もっとわかりやすい事しよっか」
逸らした目線が慾を孕んで、うすら、赤くなった。
舌の奥が、更に奥が疼く。
何て愛しいんだろう。
いっそ、嫌いになってしまいたいくらいだ。
もしそうなってしまったらどうなる?
怒涛が堰を切ってしまえば、それはやがて広げた手の形になり、その人の大事な物を死にもの狂いで奪いに行こうとするだろう。
それは「好き」と何ら変わりの無い悪趣味な冒険なのだと、やる前からわかっている事ではあるのだけれど。
……今日もまた一歩、俺は血と肉で出来た駒を進めた。
くすんだ道に光が差す。踏み敷いた部分から蔦這う様に色を変えて広がっていく世界。
笑いが止まらない。
明日は大切な人へ美しい花束と美しい言葉を贈ろう。
俺の事がわからない、金より欲しい物があるんですかなんて、そんな事も言ってたね。
わからないままでいいよ。きっとわかるようになる。
俺が本当に欲しい物はその目にも見えているはずの、簡単な、ただ一つの物なのだから。