「主、お待たせ」

 光忠が私室に運んできたのは、本丸ではなかなか嗅ぎ慣れないパスタの香りだった。バターで蒸した貝に水菜、細く刻んだ赤唐辛子が彩りもよく、夜分の事務仕事で程よく空いた腹には十分魅力的だった。
「お?どこで憶えたんだ」
 何やら得意げに、指先は「それそれ」と文机に置いていたスマートフォンを示す。
「……まさか、俺が寝てる間に勝手に使ったのか?先週来たよな、確か」
「うん、色々調べられるから便利なんだよね。今度はパン焼いてみようかな。オッケーグーグル〜」
「この野郎……」
 まぁ食べようよ、とはぐらかした光忠をひと睨みしてから、卓に座り直した。

 他愛もない話をしながら皿を空け、徳利もひとしきり空いてきた。話が一通り落ち着いた所で、光忠がちらりと目線を寄越す。
「今日は、誰か呼ぶのかい?」
「もう呼んでるだろ。今日はお前」
「……そっか、嬉しいな。隣に来てもいい?」
 卓を避ければほとんど隣にいるような位置だったが、光忠は摺り足でこちらに寄り添ってきた。
 肩に顔を寄せて、首元に頬を擦ってくる。酔いが回っているのか、甘えているようだった。それに応え、腰をグイと抱き寄せて額に口づけ、鼻先から唇にずらしていく。
 光忠も自ら舌を差し出して、こちらの舌先を軽くくすぐった。
「ふふ…っ」
 花が虫を誘うように自信たっぷりのその動きを楽しみながら、鼻筋や頬を擦り合わせ、接吻を楽しんだ。
 そのまま体を抱きかかえ、先程まで書き物をしていた文机の上に押し倒すと、少し驚いたように隻眼が瞬く。
「ん……ここで?」
 机用として畳に敷いていた座布団を足で退かし、体への愛撫もそこそこに下履きを脱がせる。片手で机の引き出しから香油を取り出すと、興奮に息を乱しながらも光忠は少し笑っているようだった。
「なに、もう挿れたいの?」
 開かせた秘部に塗り込み、香油で粘った指をやや強引に奥へ忍ばせて体の中の機嫌を見る。口ではからかっているが、ここを犯されたくてたまらないと、熱い肉がささやいていた。
 下着の中で張り詰めていた陰茎を取り出し、すっかり濡れそぼった部分に押しあてて先端を軽く入れる。そのまま光忠の太ももを押さえ、完全に奥まで収めてから、数秒の間じっくりと己の存在を光忠の体に知らしめた。
「ン、くぅ……」
 光忠を転がした机の高さは、膝立ちで挿入するのに丁度いい。畳や布団でやるのもいいが、今日はいつもより少し意地悪くしてやりたい気分だった。
 腰を押さえつけ、間も無く抜き差しで攻め立てる。樫創りの頑丈な机がかすかに軋み、光忠は手探りで机の縁を掴み自分の体を支えた。
「んッ、は、あはっ……ちょっと、急ぎすぎだって」
 不安定に揺れる腰を片手で押さえつつ、置きっ放しのスマートフォンを取り上げカメラを起動した。
「何してる、の」
「いいから俺の事だけ考えてろ」
 緩いピストンから、光忠が好きな最奥を小刻みに突く愛撫に切り替えた。
「あ、あぅ、っそこ……ぉ」
 唇が歪み、蜂蜜色の目が薄く細まった。そこでシャッターを切る。
 そのまま摩擦のスピードを上げると、好きな所ばかりを探られてたまらなくなったのか、顔をのけぞらせて声を震わせる、その瞬間にまたカメラのシャッターを数度切った。
「はぁっ、あ、ちょっと、何してるの、さっきから」
「ん?ハメ撮り」
「はめ、どり……」
「やってる最中に撮るんだよ。記念とか、まぁ他にも色んな目的でな」
 撮ったばかりの写真を翳して見せると、上気した顔が呆れたように薄ら笑う。
「あは……いい趣味」
 スマートフォンを机の隅に置き、次はよく引き締まった腹や、筋肉でうすら膨らんだ胸を揉みながら抜き差しを深いものにしていく。
「んん、っあぅ……ねえ、もういいよね、僕が乗っても」
「駄目だ。人の物勝手に使うなって教わらなかったのか?今日だけは我儘聞いてやらねえぞ」
「えぇ?根に持つなぁ……」
 問う前からわかりきっていた質問だと、彼はうっすら了解しているようだった。
 光忠の両腕を手綱のように引き腰を打ち付け、接点から彼の脳天までしっかりと芯を打ち込むように攻めた。
 香油は汗や体液でどろどろに熱し、肌がぶつかる度にぐちゅぐちゅ泡混じりの音を漏らす。
「あ、ッうあぁ、凄いっ、奥っ、きてる、う」
「いいだろ?」
「いっ、いい……気持ちい……っ」
 灯皿の蝋が一筋溶け落ち、炎が揺らめく。光忠の額や首筋、胸に浮かぶ玉の汗が、ちらつく淡い光に照らされては流れ落ちた。
「あー……よし、そろそろ出すぞ」
「いいよ……っ、沢山出し、て」
 姿勢を取り直し、ただ昇りつめるために激しく光忠の体を揺さぶった。
「あっあ、あ、んッ、主っ、主……ぃ」
 普段は言いなりになるのを嫌がり、騎乗位で己のペースに持っていきたがる彼が、がつがつと犯されだらしなく口を開けたまま泣き悶える姿はなかなかの見ものだ。
「んあっ、ひ、っも、もう、駄目……っくうぅ、っんん、うううっ!!」
 光忠が顔を横に背け、唇を噛み締めて長い叫びを漏らす。限界のあまり軽い痙攣を起こし、咥え込んだこの肉棒を千切れんばかりに締め上げた。
 素晴らしく甘美な刺激であり、絶頂への引き金だった。
 間も無くドクリと全身が震える。絡みつく肉から陰茎を引き抜き、文机に片足をつき光忠の顔へ向けて扱く。
 どぷり、どぷりと数度に分けて精液が飛び、その顔面と黒髪がおびただしい白濁にまみれた。
 しばらくはぜえぜえと息をしながら呆然としていた光忠だったが、こちらがにやりと笑っているのに気づき、じとりとした目を向けてきた。
「注文通り沢山出してやったぞ」
「……ああ、もう。顔に出すの、好きじゃないの知ってるよね……」
 些か不機嫌な声で顔を拭おうとするのを「まだだ」と押さえつけ、いつの間にか床に落ちていたスマートフォンを拾い上げた。
「よし、動くなよ」
「……っ」
 もはや抵抗を諦めた、少し虚ろな顔に向けてシャッターボタンを数度押した。


「たまには好きにされんのもいいだろ?」
 着衣を整える光忠がこちらを見ないまま鼻で笑った。
「たまには、ね。でもやっぱり悔しいから、次は僕が好きにしたいな。覚えといてね」
「お前こそ、次勝手に人の物いじったら、この大喜びしてる写真プリントして本丸中にバラまくからな。覚えとけよ淫乱野郎」
「うぇ……はいはい。ほんと、いい趣味してるよ、君は」