「聖人さんって、どんな人なんですか」
「ああ……あいつか。トシはお前とほとんど変わらねぇんだが、これが昔から可愛くなくてな」
 ベッドに仰向けになり、天井の薄い照明を見上げながら独り言のように黒澤が呟く。
「その、可愛くないっていうのは……」
「俺に全く懐かねぇんだ。ま、俺もあいつが生まれてからろくに家に顔も出さねえで、世話は女に任せっぱなしだったからな。俺の事なんて父親だとも思ってねぇだろ」
「……」
 相沢聖人が黒澤の息子であるという事実を知るのはごく一部の人間だ。その相沢を使い、東城会を掠め取る絵図の存在を知る者は、更に僅かな人間に絞られる。
 血は水よりも濃い。血筋は人を結ぶ、決して切れない糸だ。が、世襲さえ稀な極道社会で血の繋がった息子に同じ修羅の道を歩ませようとするなんて、この黒澤翼という男はつくづく恐ろしいと思う。
 まともな人間なら、黒澤を畏怖する事はあっても、その心の内を理解しようなどとは思わないだろう。
 まともな人間なら。
「……酷いな、そんなの」
「ん?」
「俺は貴方の事、ほんとの父親だって思ってますよ。多分、聖人さんよりも……ね」
 少し身を乗り出して、黒澤の胸にもたれかかる。
 裸の胸にはまだ薄ら汗が残っており、その微かな香りをとらえた胸がざわつく。
 肌に顔を押し付け、大きく息をついた。
「どうした?」
 しなだれた肩に手が回される。
 俺が何を考えてるかなんて、知っている癖に。
「……もう一回、したい」
 少し間を置き、耳元に笑い混じりの息が吐かれた。
「お前、始めからそう言えよ。めんどくせぇ奴だな」
 肩から背中、背中から腰を撫で、ぐっと深く引き寄せる手が、いつもより少しだけ熱い気がした。
 黒澤の孤独を知るのは自分だけだ。それを思うと、まるで黒澤という玩具をあの人から取り上げて、自分だけの物にできたような。そんな子供じみた独占欲が満たされる。
 思わずにやりと笑ってしまう口元を、誤魔化すように黒澤の唇へ押し付けた。