●1
 指先が髪に触れる。
 梳く仕草で差し込まれた掌に眩暈がする。
 頬を撫で、鼻筋を、唇を触って、その両目が映さない物質の在る様を貴方は触れて確かめる。
 私は自分を認識されてゆく程に、水に放たれた泥のように感覚が溶け落ちる心地がして、寄る辺ない腕で貴方に縋った。
 ……どうしたものか。私達は確かに見詰め合っているが、貴方は私を見ていない。
 交錯しない目線が私には歯痒くもありまた少々の悦びでもあった。



●2
 少し前には舌の上にあったものを、私は自らそこへ、ずるりと鳴らして迎え入れた。
 貴方の上に腰を沈める征服感は堪らない。
 思うままに動けば脳まで痺れが行き渡り、私は子供か女のように駄々な声をあげた。
 時に化け物と畏怖される強靭なこの肉体も、貴方と交われば愚かに蕩けてしまう。
 上擦った声で名前を呼ぶと、腰へ辿ってくる貴方の手。
 爪が食い込む程の圧迫に意識が眩く明滅し、私は悶えながら何度も天を仰いだ。
 薄いガラスの向こうにある貴方の目は何も視てはいないが、それでもいい、このまま狂う所まで視られたい。



●3
 私を責めてくださいと乞えば、貴方は器用にも脚を抱き、屹立した意志で私を突く。
「お前の願望は何だ」
 体を通して響く強い問い。
「革命ではないな、何だ、俺を標にする理由は、そこにあるお前の願望は」
 喘ぎ喘ぎ、私は声を繋いだ。
「私の望みは、…佐田国様の、願望のお力添えとなる事」
「…それで?」
「それだけです」
「…ふん、まるで犬だな」
 貴方が笑った気がした。
「犬ならば、奉公した分だけ可愛がってやろう」
 快楽が埒をあけて疾走する。
 ……この世など瑣末な物だ。
 私の帝王にとって、踏み敷くその何もかもが、だ。