座敷には余りをこぼした徳利がいくつも転がっており、いつか見た髑髏の墓場を思い出すようで、左之助は一層苛立ちを募らせた。
「左之助さん、そろそろ機嫌直したらどうです」
 卓の向かいで左之助の酒に付き合っていた平助が、「これで最後ですよ」と小言を付け足しながら空の猪口に透明な酒を注ぐ。
 憮然とした顔で、左之助は酌をする平助の手つきを睨みつけていた。

 平助は専ら、左之助のなだめ役だった。
 左之助が少しの事で機嫌を損ねるのは特別珍しくもないが、この所は例の新入りの事で特に気が立っていた。土方のお墨付きで三番隊の隊長に抜擢された、斎藤とかいう男だ。抜擢と言っても、斎藤は新選組とは何の面識もない余所者だった。そんな人間を招き入れる土方もどうかしている。
 左之助とて、この十番隊の長の座を安穏と待っていた訳ではない。素性も知れない、ぽっと出て来た男と横並びにされては、誰しも面白くはないだろう。
 只でさえそれで腹が煮えくり返りそうだというのに、今日は部下の隊士の前で素行にちくりと嫌味を刺された。自尊心に手足が生えた様な性分の左之助にとって、このような仕打ちは最も我慢ならないものだ。他人の上に立ち、大股でのし上がる事こそ己の生きがいだと考えているのだから尚更だ。
 左之助の心は今宵、酷く荒れていた。いつもなら聞き入れてやる平助の苦言にも、頭の奥が引き攣るほど腹が立つものに聞こえてくる。
「そろそろ戻りましょ、」と背中にそっと添えられた手を逆に捻り上げ、まだ幼さが残る顔を真正面から睨みつけた。
「……うるせえな、さっきから。どうせいつもの事だと思ってんだろ?ぶん殴られてえのか」
 平助は一瞬顔を強張らせたもののすぐに冷静さを取り戻し、左之助の苛立ちをやんわりと払いのけようとする。
「ダメですよ、荒っぽい事は。土方さんにバレたら俺まで大目玉食らっちゃうんだから」
 これが平助の常套だった。血気盛んな若い男が集まる隊の中で波風立たないように振る舞い、人間相手に感情を取り繕うのが妙に上手いのだ。
「……」
 左之助はしばしその黒い瞳をねめつけていたが、腹の中ではニヤリとした。生意気な平助への懲らしめにちょうど良い方法を、ふと思いついたためだ。
 自分達の他には誰もいない座敷に目線を一巡すると、左之助は掴んだままの平助の腕を引き寄せて、少し声を落とした。
「…わかったよ。ただ平助、ちょっと気になる事があるんだ。教えてくれねぇか」
「え。何をです?」
 体格差のせいで、平助は自分より大きな左之助を自ずと上目遣いで見る格好になる。
「お前、武田の野郎とデキてんだって?」
「……」
 その顔色に大きな変化はなかったが、きりりとした眉が怪訝そうに寄せられた。
「何で、そんな事」
「バレバレなんだよ。うちの隊でも噂になってるぜ。お前と武田が乳繰り合って何の得が生まれんのか知らねえけど、少しは 周りに気ぃ遣ってくれよ。お前らがいると居心地悪くてしょうがねえ」
「……別に、あの人とは、そんなんじゃ」
 言い終わらないうちに、掴んだ胸倉を床に叩きつけた。
 短く呻いた平助の上にまたがり、まだ少年の幼さが残る滑らかな顎に指をかけ、上を向かせた。
「言い訳はいいからよ、俺が聞きたいのは、お前がどうやって武田を骨抜きにしてんのか、教えろって事だ」
「冗談でしょ、左之助さん」
「…そうだな、俺はこういう趣味はねぇんだけどよ、今日はお前が言う通り、ちょっと飲み過ぎちまったみたいだ」
 襟を引っ張り、大きく緩んだ布を掴んで左右に開いた。
「やめてくださいよ…こんなとこで」
 まだ声は平静を崩していない。首を振る平助の顔を、手のひらで勢いよく殴る。ばしんと乾いた音が小気味良く響いた。
「いっ!つ……」
 逞しい体躯を持つ左之助は、手のひらでも拳に近い打撃を与える。
 信じられないという顔で体を起こそうと肘を立てた所を、もう一発殴る。畳に血が飛び、起こしかけた肘は再び崩れ落ちた。
 鼻血と唇からの出血でたちまち顔面を赤く濡らした平助は、言葉を強く噛み締めた唇を引きつらせて左之助を見上げた。その顔には決して力では逆らえない動物を見上げるよう、薄ら怯えが滲んでおり、左之助の加虐心はじわりと鎌首を持ち上げ始めていた。

 ほとんど裸になった平助の下穿きを剥ぎ取り、脚を開かせて秘部を覗き込んだ。武田に散々犯されているだろうから、さぞかし醜く腫れ上がっている事だと思っていたが、そこは薄紅色を保ち目立った傷もない。
「武田は随分優しくしてくれんだな」
「見ないでくださいよ…」
 恥ずかしそうに身をよじり、脚を閉じようとする平助に向かって睨みを利かせると、平助はその目に気づいて抵抗をやめた。
 平助の口の中に手を入れ、指をしゃぶらせる。この指を次には何処に入れられるのか、察した平助はいささか暗い目つきでそれをねぶりはじめた。ふっくらした唇と、ちゅぷりと音を立てて光る赤い舌。しきりに絡みつく吐息が熱い。若干の抵抗感は拭えないようだが、慣れた舌使いで指を咥える仕草はなかなか面白い光景だ。
 たっぷりと舐めさせた指を綺麗な肛門に這わせて、指の腹までクイと入れると、平助の腰が目に見えて跳ね上がる。
「あ、左之助さん、待って、」
 諌める声も震えている。
 尻を掴み、指をしっかり立てて奥にねじ込むと、仕置きを受ける子供のように顔を横に振る。
「ひあっ…、」
「何だよ、キツイじゃねえか。武田のが小せえだけなのか?」
 粘膜が破れてしまうかと思ったが、指を奥まで入れてみると、菊門は従順にも指の直径に広がっていく。しかし締めつけが緩まるわけではなく、排泄にしか使わない部分も、しつければ性器になり得るらしい。
「っ…ふ、っう」
 指を根元まで差し込み抜き差しをすると、その指を痛いほどに締めながら平助がか細い呻き声をあげた。
 二本の指を驚くほどあっさり飲み込んだ秘部は、唾液も手伝いくちゅくちゅと淫靡な音を漏らす。根元まで捩じ込み中をかき回すと、脚の付け根の筋肉がひくひくと締まる。中はもう一つの口のように、暖かい粘膜がうねりながら太い指に吸い付き簡単には離してくれなさそうだ。
 左之助は男色家ではなかったが、平助は男の目から見ても愛らしさのある顔立ちで、肌も白く滑らかだった。特に内股は手のひらに吸い付くような触り心地だ。その上時折こちらを見上げる切ない目つきも、征服欲が強い左之助の心をくすぐるのには十分だった。
 このわずかな触れ合いで、男に欲情した試しがなかった左之助の股間は強く張り詰めていた。
 下穿きを解き窮屈そうに締め付けられていた陰茎を取り出すと、平助が声に出さないものの顔を横に振り拒否を主張する。
指で弄った肛門にはごく小さな広がりが生まれていた。そこに勃起した陰茎を押し当て、若干露出した粘膜を亀頭でくすぐった。
「んっ…ぅう」
 噛み殺せない呻きを歯の奥から漏らしながら、平助が首をゆるゆると横に振る。
 それには応じず、先端を軽く押し込み、腰をしっかりと押さえつけて削るように亀頭を沈めていった。
「うぁ、ひいぃ…嫌、ぁあっ」
 喉を仰け反らせながら平助が悲鳴をあげた。やはり思っていたほど簡単には入らなかったが、奥に行く程抵抗は強くなり、異物を押し出そうと中の筋肉が力んでくる。
 男の尻の締め付けを初めて味わった左之助は、その強烈な収縮に驚きを覚えた。最早平助の必死な声は耳に届かず、更に奥を求めて腰を沈めていく。
「や、やめて、くださ、いっ…やめて、っう、うう」
 平助の表情が苦悶の色を滲ませ始めた。
 左之助の雄の形に突っ張っているであろう腸の熱さ、外へ押し出そうと必死に締め付けてくる内壁が、左之助の動物的な本能を引きずり出してくる。
 無理やり根元まで挿入し、腰をくねらせて中で馴染ませた後、すぐに律動を始めた。
 男の癖に吸い付きがいい太腿をいっぱいに開かせ、その奥へ猛った雄を何度も突き入れる。
「いっ、うあっ、あっ、や…だ」
「やだ、じゃねえだろ。嫌がって男をその気にさせんのが得意なんだな、お前は」
 平助の顔を手のひらで掴む。柔らかい頬が指に食い込み、涙を溜めながらいじらしく自分を見上げる顔を余計に歪ませたくなってしまう。
 しばらく顔を見下ろしながら腰を動かした後、体をひっくり返してうつ伏せにさせた。畳に平助の顔面を押し付けながら、高く持ち上げた尻に向かい後ろから陰茎を打ち付けた。
「んぅっ、ぐっ…んんん」
「おお、っ、こっちのがイイな…」
 男を抱く勝手は知らなかったが、左之助は後ろから愛撫を与える事が好きだった。それは単純に女を屈服させている満足感から来るものだったが、本来同族として闘争するべき男の体を獣のようにねじ伏せて犯す行為はより劣情を煽った。
 ぱん、と弾けるような音を漏らしながら、平助の奥の奥を激しく突き上げた。
「あ、がっ…は、あっ、ああ」
 拷問を受けるような濁った喘鳴が止まらない。
 結いあげた髪が幾筋かこぼれており、少し緩んでいた紐をいささか乱暴に解くと、黒髪が背中や肩にたちまち絡みついた。汗をふくんだ肌にまとわりついて濡れる髪は一層艶を増して見えた。
 その頭を背後から掴み、頭皮に爪を立てた。後ろ髪を指で絡めとり無理やり強く引きながら、平助の喉をのけぞらせる。
「ぎ、っ…い、ぐ…」
 絞殺される兎か何かのような声をあげ、喉と繋がっているかのように菊門がきつく左之助の雄を締め上げた。
 その具合が良く、何度も引きながら腰を動かす。何本もの指が絡みつくような内壁の反応は癖になってしまいそうだ。
 尻を強く掴み、平助の四肢がガクガク揺れる程突きあげれば、波立つような強烈な絶頂がやって来る。しっかりと奥に食い込ませたまま、その奥へどくどくと精液を注いだ。
「あ、あぁ…うっ」
 繋がった尻の中がじわじわと粘りを滲ませていく。一頻り種を出し切った後は容赦なく引き抜き、まとわりついた精液を拭って平助の尻に塗りつけてやった。
 平助はもう膝が立たないようで、腰を押さえ込んでいた手を離すと、力なく畳に伏せてしまった。
「……」
 乱れた着物から大きくはだけた接合の部分が、肌を打ち付けた痣や肛門の充血で赤く色付いている。
 ここで、左之助の頭に一つ考えが浮かんだ。
 ぐったりしていた平助の腕を掴み、仰向けに転がすと、太腿を開かせて先程犯した穴にもう一度指をねじ込んだ。
「いっ、ひぁ……もう、無理、ですって」
 平助が弱々しい力で腕にすがり懇願するが、それは何の抑制にもならなかった。
 差し入れた手を丸めるようにして、人差し指、中指と次々に押し込む。親指も含めて全ての指が入るようになると、穴は陰茎の幅より拡張され、先程注ぎ込まれた精液が指を伝ってとろりと漏れてくる。
 手刀のように尖らせていた手を更に丸めて、肉壁の中で作ったのは大きな握り拳だった。嫌がる平助をよそに、それを躊躇なく奥に押し込んだ。
 ぎちぎちと嫌な音をたてて、拳がゆっくりと飲み込まれていく。
「あ、がっ…あああ!うぇ、えっ…」
 唇の端を腫らした平助が、悲痛な声をあげて咳き込む。
 まるで医者にでもなった気分だ。女の膣はともかく、男の肛門がこれほど奥まで異物の侵入を許すとは。
 普通の男より太い左之助の手首が埋まって行く。臍の裏側まで到達した手でごりごりと抜き差しすると、平助は耐え切れなくなったのか涙をボロボロこぼしながら叫んだ。
「いぃ、やっ、いやだ、痛い、痛い、っうう」
 駄々をこねるような声も嗜虐を煽る。手首まで飲み込んだ粘膜の中で拳を横に捻じりながら、みちりと中を凌辱していく。
「おいおい、慣れてんじゃねぇのか、こういのは」
「何で…、そんな、」
 腹筋をビクビクと痙攣させながら顔を横に振り、不規則な呼吸で喘ぐ平助。
 拳を更に侵入させて、交接するように往復させた。中は左之助が射精したものでぬるぬると濡れており、潤滑を助けている。拳が擦れるたびにぐちゅぐちゅと卑猥な摩擦音があがる。
 もう少し奥まで伸ばすと、拳の先が柔らかい隔たりにぶつかった。左之助に比べて小柄な体つきから、早くも腸が曲がった部分に当たっているようだ。ここまでが限界らしいが、これ以上虐めたらどうなるのか、残酷な好奇心が先に立つ。腕に力を入れて残りの部分を強引に突き入れると、「みちり」と嫌な音がして、平助の体がこれまでにない程大きく引きつった。
「がはっ…、う、く…っ」
 羞恥で紅潮していた平助の顔がみるみる内に真っ青になり、震える口から泡のように嘔吐物が漏れ出してきた。
「おい、汚ねえな!」
 眉をひそめて罵りながら、左之助は腹の底から強い興奮がせりあがってくるのを感じた。拳をぐねぐねと回しながら、中から壊すように平助の体を突き上げた。
「ごほっ、ぁあっ、ぐ、うぅっ…!」
 吐瀉物と涎が混ざった液体を吐きこぼし、平助は体を突っ張らせた後、急に脱力してガクリと頭をうなだれた。そのまま動かなくなったので一瞬死んだのかと思ったが、頬を平手で叩くと小さく呻き、虚ろな目をうっすらと開いた。
「これくらいで気絶しやがって、しょうがねぇ奴だな。ほら、抜いてやるから」
 言いながら拳をゆっくりと抜いて行くが、手首より直径が太い拳の部分が菊門に引っかかり、なかなか外に出せない。無理やり引き抜こうとすれば、さっきまで宙を彷徨っていた両目がにわかに抵抗を示し始める。
「あっ…いや、です、」
「何だよ、抜いて欲しくねえのか」
「ちがっ…、あ、痛い、っあああ、ああ!!」
 最後まで聞かずに力づくで拳を引き抜いてしまったせいで、平助は髪を振り乱して絶叫した。敏感な粘膜に傷がついてしまったらしく、尻から精液と共に赤いものがとろりと零れてきた。
 それより自分の精液が手のひらににちゃりと絡みつくのが煩わしく、平助の顔を掴んで舐めさせた。女々しく嗚咽をあげながらも、指先で唇をこじ開ければ、あくまで従順に指を咥えてくる。
「さっきまで自分のケツに入ってたんだぜ。とんでもねぇな、お前」
 この痴態を目に、一度は埓を開けた下半身の熱がまた滾ってくる。おざなりに指を舐めさせた後、拳を突っ込んでいたばかりの秘部にもう一度己の亀頭を擦りあてた。先端は先程に比べて驚く程簡単に入ったが、中はやはりきつい。そして、拳で感じていたよりもずっと熱く、左之助の芯を焦がすように粘膜がまとわりついてくる。
「あっ、うあっ…左之助、さん、んんっ」
 平助に覆いかぶさり、肩を押さえつけて腰を動かした。下敷いた平助は涙を幾筋も垂らしながら、腰をぶつけられる度に引きつったような呻き声を漏らしている。呼吸の感覚が短く、かなり体力を消耗しているようだ。
 本当なら少しは情けの心が浮かぶところだ。しかし、今はこの若く甘い体を責め抜きたくてたまらない気分だった。
「…左之、助、さん」
「ああ?」
 舌がもつれているようで、その次をうまく言えないようだった。
「う、っうう…」
「何だよ…聞こえねぇぞ」
 脚を高く持ち上げ、接合の部分を見下ろしながら上下して激しい抜き差しを与えた。そこが弱い部分なのか、嬌声をあげながら平助は必死に言葉を繋ぐ。
「んっ!あぁっ!あっ……お、おねがいします、このこと、誰にも…いわないで、ください」
「バレんのが怖いのか?」
「……殺されますよ、俺も、あなたも…っ」
「そりゃおもしれぇ。ココをちょん斬られる前に、斬り返さねぇとな」
「あっ、左之助さん、ダメです、ってば……ぁ、ああっ、」
 汗でぬめる平助の太腿が、突く度にひくひくと痙攣していた。この責め苦に快楽を感じている事は、痛ましく勃ち上がった平助の陰茎から明らかに伺い知れた。
「はっ、心配しなくても、誰にも言いやしねぇよ…小姑さん方の耳に入ったらそれこそ面倒事だ」
「もう…!んっ、いぃ…っああ、あ、っ」
 そろそろ限界がきそうだった。荒い息に合わせ、平助の中で精液にまみれた亀頭を何度も往復させる。ぐじゅぐじゅと粘った白濁が接点から次々に溢れ落ち、平助の腹や胸を幾筋も伝っていた。
「っ、すげぇ……っ!!」
 強い快楽に、思わず歯を食いしばる。
 ぎゅうぎゅう喉を鳴らすように締め付ける尻の筋肉に扱かれ、左之助の雄は二度目の埒をあけた。今度は出すのを耐えていた分、数度に渡って続けて射精の波が訪れた。
「あ…左之助、さん……あつい…」
 指を噛みながら、なかば恍惚とした顔で平助はその熱の全てを己の中に受け止めた。

 しばらく平助に覆いかぶさったまま、体の毒を全て吐き出したような開放感と脱力感に浸った。
 殆ど意識を手放したような顔で平助は呆然と天井を見上げていたが、左之助が十分に濡れた秘部から陰茎をずるりと引き抜くと、身を震わせてか弱い呻きを漏らす。
 さて何を言っておこうかとぼんやり考えたところで、平助がため息のように掠れた声で笑った。
「……はは、これで、秘密ができちゃいましたね…俺と左之助さん、だけの」
 奇妙な感覚が、疲れた体にひそりと這い上がった。
「…何、言ってやがる」
 平助の薄く笑った唇は、それ以上を語らなかった。
 子供のような顔をしている癖に、その両目はこの世の底を覗くような暗い光で左之助を見上げていた。