胸に突き立てた刀から、失神しそうな悦びが腕を伝い頭の天辺まで突き抜けてゆく。
「早く楽になってしまえ」と俺は呟いた。
 こんな地獄で、お前のようなマトモな奴がいつまでも生きていられる訳はないだろう。これが、俺がお前に与えられるせめてもの救いだ。俺はそこらの人間より余程慈悲のある男だと思わないか。
 それに、本当はずっと望んでいたんだ、その胸を開いてお前の心臓を止めてしまう事を。
 初めて人を殺した時、セックスより興奮したのをよく覚えていた。ゲームの中で体験するのとは訳が違う。悲鳴を抑えつけながら肉に刃を食い込ませ、血の袋を破る行為は俺の中の渇きを甘く潤した。
 正しい事をしているからこそ気持ちがいい。中でもお前は最高だ。数多の仲間の血を吸ったお前の体は鉄のような物だと思っていたが、お前はまだ、こんなに、温かかったんだな。
「……!」
 助けを請う目で俺を見上げ、お前は言葉にならない声をあげる。口からごぼごぼと溢れる血が、俺の名前を呼ぶのを邪魔しているのか。
 いじらしくなり、血塗れの唇を舐めてそのまま食らいついた。舌で歯をなぞる感触、頬が擦れる感触、息が混じり合う感触が愛おしい。お前に触れる事全てが愛おしい。舌に絡みつく血はどこまでも甘い味がした。
「ダンテ…」
 何度呼んでも呼び足りない名を囁くと、下敷いた体から、花が萎れるように力が抜けていく。

 ―――昔、ベッドの下に潜り込めるくらい俺達が小さかった頃、父さんも母さんも見ていないからと、ふざけてお前にキスをした事を思い出した。
 それは初恋というむず痒くなる程にかわいらしい物だったのか、それともただの本能だったのか。
 どちらにせよあの時のような恥ずかしそうに笑うお前の顔は、もう一生見る事はできないのだろう。