【再会】
久方ぶりに会う主の変わり果てた容貌に、以蔵はぐっと喉を詰まらせた。
艶とした黒髪は蚕のように真白く枯れ、若々しく張っていた肌は潤いを無くし深い皺が方々に寄っていた。
「どうした以蔵、何をそんなに見てる」
不思議そうに、しかし愚答を受け付けぬ快活とした顔で武市は笑う。その笑み方だけは変わらないままで、余計に心を虚しくさせた。
一歩、二歩、近寄る。手を伸ばして抱きつき、襟元に顔を押し付けた。誰が通るとも知れない夜の裏小路で、男の胸にすがりつくのは禁忌を味わう心地がした。
「……貴方をこんな風にしたのは誰ですか」
口に出せば声は酷く乾き、届いているかも不安だ。
「なあに、お前が気にする事じゃないさ」
問いに答える事はなく、ただ優しさだけを返してくる武市は狡い男だと思う。
着物から漂う変わらない香り。背中に回る腕は力強く、なだめるようにゆっくりと体を這った。
以蔵は顔を上げ、息遣いが混じるほど迫った武市に口付けた。
とても熱い。辛苦に枯れながら、その舌は以蔵を受け入れた。どこにも逃げ場はないが、武市が離れていかないように頬をしかと捕らえて何度も唇を押し当てた。
彼の目線の先にあるのは、以蔵ではない。
以蔵では彼の情欲に応える事はできても、その心に空いた風穴を埋める事はできない。
武市の心が既にここにはないと知りながらも、以蔵は武市にしがみつき、何も咎めないその唇を貪った。
【首枷】
腰にとりつき口淫を施す以蔵に、武市は乳飲み子を見下ろす母にも似た気持を覚えた。
「以蔵には首輪が似合うな」
手に握った革紐を引くと、つられて上を向く顔。以蔵の口から離れてその日焼けした頬にびたりとあたる己の雄。それを欲して手に握り、また口の中に納める以蔵。面白くなり、その黒髪を掴んだ。
以蔵の武市への従順さは承知だが、それ以上に強引に攻めたくなるのは狩る者の性か。頭の後ろを押さえつけ、前後に揺すった。
「んっ、ぐう、っ……ふ」
狭苦しい口の中は熱く粘っており、武市の欲をいきり立たせる。
以蔵が喉元で呻く声は苦しげだが、決して歯を立てまいと努める姿に、武市への頑なな慕いを感じ、一層かき乱したく思った。
体をうつ伏せて、後ろから突く。以蔵の首を括った革紐を引く度その背はしなり、くの字に反る腰は雌猫のように婀娜。
「うあっ、はっ、ああ、」
髪を振り乱し、畳に頭を擦り付けて善がるその姿は、人斬りと呼ぶには些か滑稽だった。
「もっと俺のこと呼んでくれよ、なぁ以蔵」
「い……あ、武市さん、武市、さん…ッ!」
上擦った声が途切れ途切れに呼ぶ。
引いた首輪に喉を締められ、咳き込みながらも以蔵は武市を呼んだ。
飼い猫に言葉を強請るなど可笑しな事に思えたが、
種はあっても孕む腹を持たない交わりの前では瑣末な事だと、心の内に切り伏せ目を閉じた。