午前6時、物音で目が覚めた。持ち前の低血圧のせいか、昨夜殺月さんに命じられた特別な「業務」のせいか、体が酷く重かった。

僕が蚕のように籠っているベッドの向こうで、既にスーツに着替えて襟を整える殺月さんが見えた。

 今日は珍しくオフのはずだが、多分殺月さんの縄張りでトラブルでも起きたのだろう。裏社会で手広くビジネスをやっていれば、これくらいのイレギュラーは付き物だ。

「俺が戻るまで、神室町のシノギは任せた」

 短く放り投げられた言葉に、頭で理解こそできたが腹の内は納得いかない。口ぶりから察するに、しばらくは戻って来ないんだろう。(最悪の場合、永遠に。)

 ホラー映画のようにベッドを這い出て、殺月さんに昨夜脱がされたままの裸体であった事も構わず、広い背中にしがみついた。

「……」

 殺月さんから香るコロンは劇薬のように刺激的だ。

「……ほっとかないで、くださいよ。待てと言われていつまでも待てるほど、僕はいい子じゃない」

 殺月さんは何も言わなかった。が、肩をずらして少しこちらを向き、僕の髪をそっと撫でてくれた。

 抱く時は乱暴に掴む癖に、今撫でる手はこんなに優しい。

 違う。全然違う。

 僕は気休めの甘い飴より、貴方の本能を感じられるきつい鞭がほしいんだ。